□□昨日のつづき□□
2002年12月5日号 VOL.008
人類が手に入れた最も身近で最も偉大な発明は、植物の繊維から布や紙を作り上げた事と、動物の皮を腐敗せぬように処理し、さまざまに加工することの出来る<タンニン革>を生み出したことではないだろうか?
布と紙は別に譲るとして、革は衣類として、靴や鞄・鞍・鞭・鞘などの道具として生活の中に利用されている。そしてそれらは圧倒的に屋外で使用する道具に集中している。 即ち、あらゆる気象条件に対応出来なければ本当の意味で良い革素材とは言い切れない。 靴や鞄が水を含んで変形したり寒気でヒビ割れたりすれば軍装でなくとも役に立たない。
現代の量産靴や量産鞄は成型プラスティック等を中に入れて変形を防いだりしているが(勿論、FreeHand製品はそんな作り方はしていない)、石油製品の無かった昔の人々はタンニン鞣しの革に油を含ませたり、ロウ質やウルシ成分を塗ったりしたことだろう。しかし、油分は程なく蒸発してしまうし、ロウ分は硬化して割れやすくなる。
革が油分を含んだまま抱え込んでいられる工法は無いだろうか?
この考え方から生み出されたものが、油を含んで鞣された革=<オイルドレザー>である<オイルドレザー>の工法発見は、前号で書いた革の3大欠点を一度に補うものであった即ち、油は水を撥き・油圧は革の収縮を防ぎ・油にカビ菌は侵蝕しない、である。
人類はこの時、理想的な素材を手に入れたのだ。
靴下が濡れないで済む靴を履いた人々は、凍傷の怖れなく高度数千メートルの高山に向かい南北の極地をも目指した。 同時に厳冬
期の戦争も可能となってしまったが・・・・。
"コロンブスの新大陸発見はオイルレザー発明の成果"と言う人も居るぐらいなのだ。
──私達がヨーロッパを旅すると、何とも素敵に使い込まれたBagやアンティークな革小物を持っている人々を数多く目にすることが出来る。聞いてみると「お祖母さんから譲られた」とか「曽祖父の使っていた物」とか答えが返ってくる。 商店で売られて無いだけに羨ましく思えるが、これらは全てと言えるほど<オイルレザー製品>である。
元来、アウトドアで過酷な使用を目的として開発されたオイルレザー製品であるからタウンユースなら100年やそこら使えて当たり前なのである。そこには、使い込まれた本物の道具の存在感が<凛>として心に迫ってくる。
さて、我が国日本には歴史の中でオイルドレザーは渡来しなかったのか?
実は既に明治時代、オイルレザーも、それを加工する日本人の職人たちも存在していた。
(F)
──以下次号─