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VOL33 ─良いかばんを考える(1)─

□□昨日のつづき□□

2003年10月5日号  VOL.033

──良いかばんを考える(1)──

 過日、フリーハンドのお客様でもあるY医師より興味深い話を伺った。
「上手な手術をする医師は、執刀する時メス先を直線で切らずに微妙に動かしている。その執刀医の縫合した手術痕はきれいで目立たなくなるのだ」  筆者は不遜にも「皮膚のカットだけなら私にも出来る」と答えて2人で笑いあった。

 カンの良い読者なら、もうお分かりだろうが、皮膚には肌目がありシワがある。 手の甲でも腕の部分でも、皮をつまんでタテヨコに引っ張ってみると、伸びる方向と伸びない方向があることに気づく筈だ。  肉体は様々な動きをするが皮膚繊維はその運動を補い、また妨げない様に作られている。

 例えばベルトを作る時、この繊維の伸びる方向と並行に裁断した製品は使用していると、どんどん延びてしまう。 バッグで言えば、荷重のかかる底部や持ち手やストラップの取り付け位置には必ず伸びない方向の部分を使用しなければならない。 ボストンバッグやブリーフケースの変形したものを良く見かけるが革の裁断時に、この肌目を無視し、1枚の革からより多くのパーツを得ようと経済効率を優先させた某メーカーの製品が多い。

 良心的なメーカーは、少なくとも腹部は捨てて、肩・背・腰の部分しか使用しない。 1頭分の革の約半分は捨てているのだ。

出来上がったバッグや靴の負荷のかかる部分を見て、それが動物の体のどの部位かを見分けるには、かなり熟練を要する。  しかし、この負荷のかかる部分に着目するとメーカーのモノづくりに対する姿勢は簡単に見抜くことが出来る。

                                   (F)
                             ──次号につづく─