□□昨日のつづき□□
2003年4月5日号 VOL.018
──サントリーレッドの呪い(2)──
ウィスキーのアルコールで脳の奥底まで麻痺した三人の話題の中心は、素人がBagを作るための技術の習得を何うするのかの問題では無かった。工房の運営でも店舗の経営でも無かった。 Bagや靴など作ろうと決意さえすれば作れると思っていたし──事実、我々が最初に行った事はエルメスのBagを撮影しながら少しずつ解体し、写真を逆に並べて解いた手順と逆に手縫いで組み上げたのだ。
又、良い革を丁寧に作れば売れない筈がないと思っていた。(実はこれが一番大変で困難な事だった)
我々の最大の関心事は、何故この国のアパレル関連のほとんどが<品質>を維持できずに駄メーカーに成り下がるのか?であった。
洋服でも鞄でも靴でも、良質の製品を産み出した姿勢を評価されて社会にそのブランド名が浸透し始めると、足並みを揃えたように品質を劣化させてしまう。
売り上げを増やすために、生産の方法を変化させてしまうからだ。
品質を落さずに量産を図る方法は無いのだろうか? 塩ビやナイロンと異なり一匹一頭づつ個性の違う<革>は、工場生産的工法で良いものは生まれない。職人が手づくりする所にしか<良質>の維持は有り得ない。 しかし職人が一人前になるには5年や10年でも足りないのだから、尚更、品質と量産の接点は無い。
三人の酔った頭が結論を導き出した。
まず最初の十年間技術を習得する。次の十年「弟子職人」を育てる。すると二十年後に生産量は倍になる。その次の十年「孫職人」を育てる。即ち三十年後には4倍になる。
五十年後には20倍を越す事だろう。
我等日本人の器用な指と繊細な感性で創り出した<品質>で世界に勝負だ!!
この時、アルコールの作用は五十年後に自分達が「老いる」事を忘れさせていた。
我々は、これを<サントリーレッドの呪い>と呼んでいる。
(F)
──次号につづく─