□□昨日のつづき□□
2004年4月25日号 VOL.042
──良いかばんを考える(5)──
針と糸で縫うと言うこと
約20年程前の話だが、何にでも好奇心を抱く筆者は、ふと思いついて都内の出身小学校を訪れた。 家庭科の先生に協力して貰い、児童40~50人程のクラスで、厚手の綿布を2枚づつ全員に配って、何の説明もせずに「この布を縫い合わせて雑巾を作って下さい」と話した。
用意したものは、各自に針1本と5色程の木綿糸である。 30分程の時間内だったが、出来上がったものは巧拙は別として、1人の例外も無く同じ形だった。
使用した糸色の黒や赤や青の差はあるものの、まず2枚の布の縁を四方に縫い止めて次に対角線を縫い合わせる。手の早い子は、更に辺の2等分線上を十字に縫いつけると言う、旧日本海軍旗のようなデザインだ。 そして、縫線が曲がらずに真っ直ぐに出来た子は嬉しげな様子で、ピッチも均一な子は、とても誇らしげだった。
実は、全く同じ事をイタリアのフィレンツェ近くの学校で行なった事がある。
年頃も同じような子供達で、20人程の人数だったが、驚くべき事に結果は1つとして同じものは無かったのだ。 最初から真っ直ぐ縫おうとする意識の無い子、2枚の布のセンターあたりから渦巻状に縫う子、糸色でカラーコーディネイトする子、布を3角折りしてから縫う子・・・・と、それはとても感動的な情景であった。
──民族性の違いを実感させられた体験だった。
筆者はこの時以来、アーティスト達は別にして、日本民族はアルティザン(芸術的職人又は個性的職人)になり得ないと思っている。
しかし逆に言えば、日本人程、均質で几帳面な民族もいないと思っている。
国内全ての工房や工場で、入社し立ての見習い職人の誰でもが、指示する迄も無い程縫製は真っ直ぐであろうとし、曲がれば失敗だと感じる。
外国人と取引を多く経験して来たが、糸落ちやラインの歪みを指摘すると、「鞄として使用するのに何の問題もない」と逆に不思議そうに反論された事は1度や2度では無い。
高価格で有名な某ブランドのステッチを目で追って見ると良い。
民族性を理解できる。
さて、革と革の重なる箇所のステッチをW縫いするのは当然の事ですよ。
革の合わせ目に糸をかけるのも面倒臭がらずに行うものですよ。
良心的なメーカーの見分け方で1番簡単なのは「糸止め」の仕方かな。
──次号につづく── (F)