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VOL65 ―カシミアを考える(1)―

☆☆☆ フリーハンド ☆☆☆

2009.11.09

──カシミアを考える①──
コラム「昨日のつづき」 Vol.65

 

カシミアとはヒマラヤ山脈ネパールの西、インドとパキスタンとの国境付近の山岳地帯カシュミール地方に棲息するカシミア種の山羊の毛から取れた繊維を言います。
高度8000m級の山脈に囲まれたこの地方は寒暖の差が激しく、冬はマイナス40度にもなる厳寒の地で、一年を通して強い風が吹きつけている環境です。
そのような風土に暮らすカシミア種の山羊は、自分の体温を冷気から守るため比較的長くて太い体毛の下に、柔らかくて細い産毛(うぶげ)を巻きこむように作っています。
体毛の二層構造です。 柔毛(にこげ)は羽毛のダウンボールのように空気を閉じ込めて体温から生れる輻射熱(遠赤熱)効果で自分の身体を守っているのです。
この柔毛を年一度体毛の抜け変わる春に「櫛(くし)」などを使って採集します。
一頭から取れる量は200g程度で、汚れなどを洗い取ると150g程度しか有りません。  セーターは5~6頭分、ロングコートなら20~25頭分くらい必要です。

「繊維の宝石」と呼ばれるカシミアの価値は稀少だから・・・では有りません。  「肌ざわりの良さ」と「暖かさ」にこそカシミアの価値が有ります。
私たちが感じる「肌ざわりの良さ・暖かさ」は、まず繊維の細さで決まります。  細ければ細いほど良い訳で、逆に繊維が太いほどチクチクして感じますし、敏感な肌の人はアレルギー症状まで起こします。
では、カシミアはどの位の細さでしょうか?   人間の髪の毛は平均50~70ミクロン程度です。 1ミクロンは1000分の1ミリです。  一般的な羊毛のウール素材は25ミクロン程度です。 30ミクロンを超すようになるとチクチク・・を感じます。  高級と言われるメリノウール

が22~23ミクロンです。
テーマのカシミアはどの位の細さでしょうか?  何とカシミアは15ミクロン程度の細さです。 この細さが宝石とまで言われる価値観なのです。

カシミア種の山羊の総数は6000万頭と言われています。  この内、純粋にカシュミール地方にいるカシミア山羊は3分の1程度だと推測します。
古くから、カシミアを扱ってきたヨーロッパの商人・生産者は、更にその毛の色具合でランク付けをし、美しい染色の可能なホワイトカシミアを超一級品として価値づけて来ました。  ホワイトカシミアは全体の1割もいないでしょう。
このランクのカシミアは古くからの取引のある人間とその組織の間でしか取引されていません。
そのクラスだけを一流品と呼べるのです。
計算してみましょう!
先ほど、セーターで5~6頭分必要だと書きました。
6000万÷3×0.1=200万頭÷5~6≒33万~40万着となります。
世界中で40万着弱です。  コートやストールや手袋、更に寝具用の毛布なども作っていますので、それぞれは本当に稀少なものになります。

カシミアとは、そう言う素材です。  1万を切るセーターなど本来は有り得ません。  まして大型量販店や安売りがテーマのチェーン店に存在する方が不思議なのです。

さて、ここからが問題です。

カシミア山羊は厳しい気候風土の中に暮らすから、このような柔毛を作りだしたのだと書きました。
このカシミヤ種の山羊を低地の草原地帯で育てたらどうなるのでしょうか?   動物は気候に合わせて自らの特徴を変化させます。
温帯の草原の牧場で暮らす山羊たちは、体温の低下を防ぐ必要が無くなりますから「柔毛」を作りだす必要も無くなります。 進化なのか退化なのかは分かりませんが、体毛は太い直毛に変化して行くのです。  これは「カシミア」なのでしょうか?  動物学的にはカシミア種の山羊を交配させて作った山羊はカシミア種の山羊です。
だから、この山羊から採取した体毛で作ったセーターやコートやストールはカシミア100%と表示して何の問題も無いのでしょう!

── その2に続く ──